車は製造してから10年近く経ってくると、エアコンの効きが弱くなってきます。
我が家の車も製造されてから約10年が経過し、最近エアコンの効きが急に悪くなってきました。
普通ならガソリンスタンドや自動車屋さんで冷媒ガスを補充してもらうことになると思うのですが、私は以前メーカーでエアコンの設計開発をやっていた時期があったので、その知識を使って自分でカーエアコンにガスを補充することにしました。
幸い、カーエアコンの冷媒を自分の車に補充するだけなら特に資格も必要ありませんし、素人でもいくつかのポイントを押えておけば、簡単に冷媒ガスを補充することができます。
ということで今回は、自分でカーエアコンのガスを補充する方法について、写真付きで詳しく説明していきます。
なお、この記事を読んでみて少し難しいなぁと感じた場合、ガス補充よりもっと作業が簡単なカーエアコン添加剤のDIY施工方法(補充量が少ないため、効果は小さい)もありますので、ご参考まで。
>>エアコンイノベーターで車のエアコンに冷媒ガスを補充する方法
>>カーエアコン添加剤(パワーエアコンプラス)の具体的な入れ方
カーエアコンの動作原理と冷媒が漏れ出す理由
まず始めにお話しておきたいことは、カーエアコンの動作原理と冷媒が漏れ出してしまう理由についてです。
カーエアコンは、エアコンを構成するパーツの接続部分や圧縮機と呼ばれる部品のシール部分が溶接などによって完全に密閉されているわけではないため、どうしても年間約3~5gづつ冷媒ガスが抜けていってしまいます。
出典)トラブルシュート(エアコン、クーラ編)|セドリック/グロリア 230 ハンドブック
この年間約3~5gという数字は適正に車が維持管理されているときの話で、特に冬場にエアコンをONさせず(圧縮機を使用せず)にヒーター送風だけを使い続けるような場合や、長期間車を使用しなかった場合などはエアコンの配管の中で冷媒と一緒に循環しているオイルが各部のシール部分にまでいきわたらず、シール部のオイルが切れ、そこから通常よりもたくさん冷媒が漏れ出してしまうこともあります。
ですので、年間約3~5gというのは状態の良い車の場合であって、そのような使い方をしている場合は、それよりもたくさんの冷媒が抜けてしまっているということを覚えておきましょう。
このカーエアコン特有の微量の冷媒もれについては、製造工程の簡素化やエンジンから直接エアコンの動力を得るという構造上仕方のないことと言えます。
だからといって、メーカーはその冷媒漏れとそれによるエアコンの性能低下に関する事実を無視しているわけではありません。
カーエアコンには冷媒を蓄えておく冷媒タンクのような部品(リザーバー、下図の右下)がついていて、そこに5~10年かけて抜けていってしまう分の冷媒を予め余分に蓄えておくという設計になっています。
ただその冷媒漏れに対する対策が役に立つのは車が製造されてから5~10年が限度で、そこを過ぎてえしまうと、そこに蓄えられていた余分な冷媒(予備の冷媒)が全部なくなってしまうことになります。
その結果、カーエアコンは適正な運転状態を保つことができなくなり、徐々にエアコンの能力が低下していきます。
もしエアコンの性能が低下していってしまった場合、実際にどのようなことが発生するかというと、夏場だとエアコンの吹き出し口から冷たい風ではなくぬるい風しか出てこなかったり、冬場だとエアコンのスイッチをONにしても窓ガラスの曇りが取れないなどの症状が出てきます。
つまり、カーエアコンは部品が故障しているのではないのに、このような理由から冷媒が不足することでエアコンの性能が低下することがあり、そのような場合は、単純にその不足している分の冷媒を補充してやれば元に戻るということになります。
冷媒の補充でエアコンの効き良くなるかどうか事前に判断する方法
カーエアコンに冷媒を補充する前に考えておかなければならないことは、冷媒を補充すればエアコンの効きが良くなる可能性があるのかということ。
冷媒を補充したのにエアコンが直らなかった・・・なんてことになったらショックなので、まずはここで紹介する内容を理解して、あなたの車のエアコンが冷媒を補充すれば直るのかどうか判断していきましょう。
暑い日だけエアコンの効きが弱い場合
夏場の特に暑い日だけエアコンの効きが弱くなるような場合は、逆に言うと暑くない日はエアコンがちゃんと動いているということになるので、エアコンの構成部品が壊れている可能性は少ないといっていいでしょう。
このような場合は、先ほど述べてきた通り、カーエアコンから毎年少しずつ冷媒が漏れていき、暑い日に車内を冷やすために必要な分の冷媒量より、カーエアコンの中に残っている冷媒量が少なくなってしまっている(厳密に言うと、コンデンサーの凝縮圧力が下がって車外に熱を放出できない)ので、暑い時だけエアコンがあまり効かないということになってしまいます。
このような状態で冷媒が足りていない場合、真夏の暑い日にエアコンの設定を以下のようにした状態でエアコンの吹き出し口の温度を測定してみてください。
吹き出し口温度測定する時のエアコン設定
- AC;ON
- 設定風量;最弱
- 設定温度;最低
- 空気取込;内気循環(外気は取り込まない状態)
冷媒が足りていない場合は、吹き出し口温度が10℃以上になってしまっていると思います。
ちなみに、冷媒量が正常の場合、この設定に合わせると吹き出し口温度は10℃以下になります。
逆に言うと、このような微量な冷媒が不足の場合は気温の下がってくる夜間はエアコンがちゃんと冷えることが多いので、このような場合はエアコンの冷媒ガス補充で対応できる可能性は高いと言えます。
サイトグラスが白い泡だらけ
冷媒漏れによる能力ダウンが疑われる場合、カーエアコンをONにしているとき(ブゥーーンという音と共にエンジンルームのファンが回っているとき)に車のボンネットの中にあるサイトグラスというガラス窓から冷媒の状態を確認すると、白い泡交じりの冷媒が勢い良く流れてくるのが見えると思います。
その様子は、こちらで紹介されているYouTube動画を見てもらうとよく分かると思います。
どうしてサイトグラスに白い泡交じりで冷媒が流れている状態だと冷媒が不足しているという判断ができるのかというと、このサイトグラスというパーツは凝縮器(コンデンサー)という熱を車外に放出するアルミ製の熱交換器の後に取り付けられており、規定量の冷媒が充填されていればこの位置での冷媒の状態は完全な液体か、またはちょろっと気泡が混じっている程度になっていて、サイトグラスからは何も見えない(完全な液体であれば気体が混じっていないため、白い泡状のものは見えない)はずだからです。
このように、適正な量の冷媒漏れによって何年かかけながら冷媒が漏れていってしまい、サイトグラスで冷媒が白い泡のような状態で勢い良く流れているようなケースでは、単に減ってしまった冷媒を補充してあげればエアコンの性能が回復する可能性が高いと考えてよいでしょう。
ちなみにサイトグラスがない車の場合は、エアコンの低圧ポート(キャップにLの表示がある)の配管表面温度を測定することでも冷媒の不足を確認することができます。
例えば、低圧ポートはエバポレーター(蒸発器、車内に冷気を出すパーツ)の下流側に設置されているため、この配管温度が外気温と同じぐらい十分に高い場合、冷媒量が不足している可能性があります。
逆に、この部分の配管の温度が十分に低い(蒸発温度より少し高い5~10℃ぐらい)の場合、冷媒の量は適量であると判断できます。
ホームセンター等に売られている非接触タイプの温度計(2000円程度)などで配管温度を測定してもいいですし、ちょっと配管を触ってみて冷たくなければ冷媒量が不足している可能性がありますので、ご参考まで。
低圧圧力が少しだけ低い
カーエアコンの冷媒ガスが不足している場合、エアコン動作時(コンプレッサー動作時)の低圧圧力が極端に低くなります。
例えば、R134aの場合、安定時の適正冷媒圧力は約0.2MPa(ゲージ圧)程度なのですが、冷媒ガスが抜けてしまっている場合、その圧力が0.1MPa前後ぐらいまで少しだけ低くなってきているはずです。
これぐらいのレベルだと冷媒ガスの補充でエアコンの冷えが回復する可能性があります。
それよりも低圧圧力が低い、例えば0~-0.1MPaの範囲にある場合は、もう完全に冷媒がなくなっているような状況(冷媒漏れがひどい状況)ですので、例え冷媒補充を行なったとしても、すぐに冷媒が抜けてしまいますので、冷媒漏れの修理が必要でしょう。
ただし、そのことを承知の上で、冷媒を補充してみてどのくらいの期間、カーエアコンが動くのかどうか見てみたいという人は、下のPDFを参考に必要な冷媒量を充填してみましょう。
このデータ集を見ると分かると思いますが、カーエアコンの中が空っぽの状態からエアコンが正常に作動するレベルにするには、結構な量の冷媒が必要になりますね。
普通、適正なリーク量で10年ぐらい経ち、冷媒の効きが悪くなる場合、毎年3~5gづつ冷媒が減っていくわけなので、補充する冷媒の量は30~50g程度、ちょっとカーエアコンの使い方が悪かった場合でもせいぜい100gぐらい(200gのサービス缶の半分ぐらい)の冷媒補充で済むはずです。
これらのことを考えると、焼き付き防止装置が働くような状況は相当な量のリークが発生している可能性がありますので、たとえ冷媒を補充したとしてもまたすぐに漏れ出してしまうと思いますので、冷媒のガスの補充でエアコンが直るとは考えない方が良いでしょう。
なお、カーエアコンの低圧圧力は冷媒を充填する際に使うチャージホースについている低圧圧力ゲージ(約1000円)のガス缶側を全閉の状態で測定できます。
【注記】
本来であれば、エアコン動作時の低圧側と高圧側の冷媒圧力をゲージマニホールド(安いものでも約5000円ぐらいから)で測ることでより、正確にエアコンの故障箇所を特定することが出来ます。
例えば・・・
- 高圧、低圧とも適正圧力より低い
→冷媒漏れ、膨張弁のつまり - 高圧、低圧とも適正圧力より高い
→過充填(冷媒の入れすぎ) あるいは コンデンサの冷却不良(冷却ファンの回転不足とか) - 高圧が適正圧力より低く、低圧が適正圧力より高い
→コンプレッサ異常(内部のシール漏れなど)
R134aの適正圧力
- クールダウン開始時点
高圧=2~2.2MPa(20~22kgf/cm2)程度
低圧=0.1~0.3MPa(1~3kgf/cm2)程度 - 安定時
高圧=1.3~1.6MPa(13~16kgf/cm2)程度
低圧=0.18~0.22MPa(1.8~2.2kgf/cm2)程度
※ゲージ圧、夏季条件、1500~2000rpm安定時
低圧圧力が低くなるのは冷媒漏れか、膨張弁のつまりとなりますが、一般的なカーエアコンの場合、膨張弁に異物(金属カスや氷)が入り込まないような工夫がされていますので、低圧圧力が低くなってしまう原因は冷媒ガス漏れだと判断していいのではないかと考えます。
ですので、コンプレッサーは動いているものの低圧圧力が低いという条件を満たす場合、冷媒漏れがカーエアコンが冷えない原因になっている可能性が非常に高いと言えます。
低圧圧力を測定するだけなら、1000円ぐらいのチャージホースについている低圧ゲージで出来ますので、出費を抑えたいという場合は、上記のような考え方をしていくといいと思います。
なお、素人でも簡単にエアコンの冷媒封入量をチェックすることが出来るツール(約2000円)がありましたので、こちらの記事で紹介しておきます。
>>【補充ガスチャージ前に】車のエアコン冷媒量をDIYチェックする方法
それ以外の場合
上記でお話した通り、「エアコン(コンプレッサー)は動いているのだけれど、ちょっと冷えがトロいなぁ」という場合は、エアコンガスの補充でエアコンの効きが戻る場合があります。
逆にそれ以外の場合、例えば、エアコンのスイッチを入れても全くコンプレッサーが動かない(アイドルアップしない)とか、夜の比較的涼しい時間帯でもエアコンが全く冷えないという場合は、冷媒ガスの漏れがひどかったり、それ以外の部品の故障が考えられます。
判断方法1~3のように、カーエアコンの冷媒ガス補充は、正常な範囲での冷媒漏れが原因の場合にのみ有効な方法になります。
冷媒不足でないのに冷媒を充填した場合、カーエアコン内の圧が高くなりすぎて、壊れていなかったパーツまで壊してしまう可能性もあります。
「カーエアコンの冷えが弱いのは、冷媒が適正量足りていないだけだ」という確信があって、作業を自己責任で行えるという場合以外は、プロに修理を依頼した方がいいでしょう。
カーエアコンに冷媒ガスを補充するために必要な道具
ここからは、カーエアコンに冷媒ガスを補充するために必要な道具についてお話していきます。
まず、冷媒ガスを補充するために必要な道具は、「冷媒ガス」そのものと、「チャージホース」と呼ばれる冷媒ガスが入った缶とカーエアコンを接続する専用のホースの2つです。
まずはじめに、冷媒ガスを手に入れる方法から説明していきましょう。
車に充填されている冷媒ガスの種類は製造された年代順に3つに分かれていて、これからあなたの車に充填するガスは元々あなたの車に入っていたガスを補充する形になります。
- 2013年頃~;R1234yf(HFC-1234yf、補充には資格が必要)、R134a(HFC-134a)
- 1990年頃~2013年頃;R134a(HFC-134a)
- 1990年以前;R12(フロン22)
R1234yf冷媒(新しい車の場合)
2013年以降に製造された車両から徐々にR1234yfという冷媒が使われるようになっています。
このR1234yfという冷媒ガスは可燃性であるため、私達素人は補充も回収もしてはいけない決まりになっていますので、2013年以降に購入したこのようなステッカー(R1234yfと表示など)の貼ってある車の場合、ほんとうに残念ですが自分で補充するのはあきらめ、ディーラーやオートバックスなどのカー用品店などに依頼しましょう。
R134a冷媒(ほとんどの場合)
次に、ほとんどのケースがこれに当てはまると思いますが、1990年辺り~2013年頃に製造された車にはR134a(HFC-134a)という冷媒ガスが使われています。
このR134a冷媒の場合、冷媒を回収廃棄するためにはそれに応じた資格が必要になりますが、冷媒を補充する分には特別な資格は必要なく、冷凍サイクルや作業手順に対する正しい知識、そしてすべて自己責任で行うという覚悟があれば、誰にでもできます。
というのも、このR134a冷媒というのはスプレー缶の形で市販されているエアダスターにも使われている(最近は少なくなってきましたが・・・)ようなものであり、一般人でも普通に手に入れることができる不燃性の安定した物質だからです。
一度、ネットで「hfc-134a エアダスター」などと調べてみると、そのことがよく理解できると思います。
ちなみに、自分の車がR134a冷媒を使用しているかどうかを見分ける方法は主に以下の3つになります。
灰色キャップでHとLが表示されている
ワンタッチカプラの接続ポートで、外周にネジが切られていないタイプである
R134aなどと書かれたシールが車体に貼られている
なお、R134a冷媒は素人でも楽天やアマゾンなどのネットショップや、大型のホームセンターなどで以下のような200g缶を購入することができます。
R12冷媒(旧車の場合)
R12冷媒が搭載されている車の見分け方としては、以下の2つが考えられます。
1990年以前に製造された車である
R12冷媒は、1990年以前に製造された車に充填されている冷媒ですので、1990年以前に製造された車の場合、R12冷媒が採用されている可能性があると考えましょう。
ジョイントの外側にネジ溝がある
今では純粋なR12冷媒というものは販売されていませんので、R12冷媒と互換性のある代替R12冷媒を充填することになります。
ただし、この冷媒が充填されている車の場合、既に製造されてから20年以上経過していることになりますので、この冷媒の場合もプロに修理を依頼した方がいいと思います。
チャージングホース
冷媒ガスが入ったボンベとカーエアコンを接続するホースのことを「チャージングホース」と呼びます。
チャージングホースにもいろんな種類のものがありますが、自分でカーエアコンにガスを補充する場合、最低でもゲージが一つはついているものを選びましょう。
というのも、後の冷媒ガス充填の具体的なステップでお話していきますが、このようなゲージが付いていると数値で適正なガス圧をチェックしながら冷媒ガスを充填していくことが可能になります。
勘で冷媒ガスを充填してしまうと、入れすぎによってカーエアコンの高圧側のシール類を破損してしまう可能性があります。
ゲージ付きのチャージングホースでも、安いものなら2500円程度で購入できますので、シール破損で数万円の修理代のリスクを回避するために予算に+1000円して、ゲージ付きのチャージングホースを購入するようにしてくださいね。
カーエアコンに冷媒ガスを補充する具体的な手順
ここからは、カーエアコンに冷媒ガスを補充する具体的な手順についてお話していきます。
エンジンON、エアコンONで30分ぐらいアイドリングする
カーエアコンの冷媒充填をする前にやっておきたいことは、車のエンジンをON、車の窓を開放し、エアコンをMAXにした状態で30分ぐらいアイドリングすることです。
素人が失敗するパターンとして、エンジンルームが冷えた状態で冷媒を充填してしまい、エンジンルームが暖まったときに、カーエアコンの高圧側の圧力が高くなりすぎて、カーエアコンの接続部などに使われているシールを破損してしまうことがあります。
逆に考えると、エンジンルームを暖めておいた状態で冷媒を充填すれば、その状態が一番圧力が高まる状態ですので、冷媒の入れすぎによる故障リスクを低減することができます。
もっと言うと、作業する時間帯は涼しい明け方や夜中などではなく、真夏の暑い日の昼間などに汗をだらだらかきながら作業するぐらいのほうがいいですよ(汗)
サイトグラスや低圧ポートの温度計測で冷媒量を確認する
先ほどもお話しましたが、これから行う冷媒充填という作業は、単に経年劣化で冷媒が抜けてしまっているからエアコンの効きが悪くなった時だけに有効な方法です。
エンジンルームが暖まった頃にエンジンとエアコンはつけたままボンネットを開き、高圧側の配管などに付いているサイトグラスで現在の冷媒量の状態を確認しておきましょう。
そこを流れる冷媒が白い泡状になって勢い良く流れているようであれば、冷媒が不足していると判断してOKでしょう。
この時点でエアコンのコンプレッサーが動いていないとか、冷媒が流れていないように見える(気泡が混じっていない完全に液体)の場合は、エアコンが効かない原因は別にありますので、そのような場合は作業を中断してください。
また、同時にエアコンの低圧ポート(キャップにLの表示がある)の配管表面温度を測定することでも冷媒の過不足を確認することができます。
- 低圧ポートの配管温度;外気温と同じぐらいか、それ以上に高い
→冷媒量が不足している可能性がある。 - 低圧ポートの配管温度;温度が十分に低い(蒸発温度より少し高い5~10℃ぐらい)
→冷媒の量は適量である。
上記のような方法でシステムに封入されている冷媒量の過不足を確認し、エアコン不調の原因が冷媒量が少ないことだと判断することができたら、下記の手順に進んでいきましょう。
チャージングホースを冷媒の入った缶に接続する
さぁ、ようやく予め購入しておいた冷媒缶にチャージングホースを接続していきます。
まず、チャージングホースの中にある針を引っ込めておきます。
次に、冷媒が入ったサービス缶を回しながら取り付けていきます。
しっかりと冷媒缶をチャージングホースに取り付けたら、チャージングホースの接続部の上についていた手回しバルブをしっかりと時計回りに閉めこんでいきます。
こうすることによって、接続口の中にあった針が冷媒缶にめり込んでいって穴を空けることができます。
逆に、この手回しバルブを反時計回りに開いていくと冷媒が放出されますが、この段階ではバルブをしっかりと閉じ、大気中に冷媒が漏れ出ないようにしておきましょう。
低圧側のカプラに接続する
まずは車のエンジンを停止させ、安全に作業できるようにしておきましょう。
ここからチャージングホースのもう片方の接続口を、カーエアコンの低圧側のカプラ(Lの表示があるほう)に接続していきます。
ここでのポイントは、カーエアコンシステム(配管)の中にチャージングホース内に溜まっている空気(水分や酸素など)が入ってしまわないようにチャージホースの手回しバルブを少しだけ開き、チャージホースの先端から冷媒がシューと音を立てて少しづつ漏れ出しているような状態で接続していくのがコツです。
このようにチャージホース内にあった空気を追い出す手順のことをエアパージ(air=空気、purge=追出す)と呼びます。
今回の場合は冷媒を使ってチャージングホース内の空気を追い出しました。
というのも、エアパージするために使った冷媒はこれからカーエアコンシステムに充填されるものなので、それがチャージングホース内に残っていてもOKというわけです。
なお、ゲージマニホールド(青色と赤色の圧力計があって3本のチャージングホースを接続できる機器)と真空ポンプがある場合、真空ポンプを使って真空引き(配管にある空気を追い出して配管内を真空にすること)してから、冷媒を充填するという方法もあります。
ただ、それらの工具を揃えようと思うと安いもので揃えても1万円ほどしてしまいますし、日曜大工レベルであれば先ほど紹介した冷媒でエアパージする方法が簡単だと思いますので、ご参考まで。
ワンタッチカプラがカーエアコンシステムの低圧配管に完全に差し込まれると「カチッ」と音がします。
なお、このワンタッチカプラは挿入しているときしか冷媒が漏れ出さない構造になっていますので、取り外しの時も若干プシュっと音がするだけで、大量に冷媒が漏れ出すということはありません。
接続できたらパージングのために少し開いておいた手回しバルブを閉じておき、この時点ではすぐに冷媒を充填していかないようにしてください。
冷媒を充填する
さて、これから冷媒を充填していくわけなのですが、先ほどのアイドリングの時と同じように、まずはエンジンをON、窓を開放し、エアコンの温度設定を最低、風量は最大に設定しておきましょう。
冷媒を充填する時のエアコン設定(最大負荷)
- AC;ON
- 設定風量;最強
- 設定温度;最低
- 空気取込;外気
- 窓;すべての窓を開放
この状態がエアコンに最大の負荷がかかっていることになりますので、この状態で冷媒が不足しないレベルまで冷媒を補充していきます。
具体的には、エアコンが動いている状態で手回しバルブを少しづつ開いていき、ゆっくりと冷媒をカーエアコンの中に補充していきます。
ここで注意点が一つあります。
一気に冷媒をカーエアコンに補充してしまうと、コンプレッサーを壊してしまう可能性がありますので、ガスを補充する場合は、冷媒の缶は上向き(チャージングホースを繋いだ方を上に向けた状態)で、手回しバルブは必ず少しづつ開いていきましょう。
どうして缶を上に向けなければならないのかというと、冷媒缶の中には液体と気体の冷媒が入っていて、液体の冷媒は缶の下側に溜まっています。
缶を上に向けてバルブを開けると、缶の上側にあるガス冷媒をカーエアコンに送ることになり、逆に缶を下に向けてバルブを開けると、缶の下側にある液冷媒をカーエアコンに贈ることになります。
つまり、間違えて冷媒の缶を下に向けてバルブを開いてしまうと、本来は冷媒がガス化した状態にあるべき低圧側補充口(コンプレッサーの直前)に液体の冷媒が入りこんでしまいます。
その結果、液体のままの冷媒をコンプレッサーが吸ってしまう通称”液バック”というコンプレッサーの故障を招く現象を引き起こしてしまう可能性があります。
通常、冷媒はガス化されてコンプレッサに吸入されますが、蒸発器の凍結や循環ファンの風量ダウン、また低外気温度を吸い込み続けるなどして熱交換不良を起こした場合に、冷媒が充分にガス化されずに液状のままコンプレッサに吸入されることがあります。この現象を「液バック現象」といいます。この状態が続くと、コンプレッサ可動部のオイルが洗浄された状態となり、コンプレッサの焼付現象を発生させる場合があります。
引用)コンプレッサの液バック現象とは|よくあるご質問(FAQ)|株式会社アピステ
冷媒を充填する際は冷媒の缶を上に向けて、ゆっくりゆっくりとガス冷媒を補充するようにしてくださいね。
冷媒が補充されていくと、サイトグラスの中で白い泡状で勢い良く流れていた冷媒が、次第にゆっくりとなってきて、最終的には一つの気泡がふわふわと浮いているような状態になっていきます。
そのようなサイトグラスの中に気泡が一つふわふわと浮いているような状態が、必要な量の冷媒がカーエアコンの中に補充されたサインですので、そうなったら一旦手回しバルブを閉じましょう。
出典)トラブルシュート(エアコン、クーラ編)|セドリック/グロリア 230 ハンドブック
また、サイトグラスの観察と同時に低圧ポートの温度も測定しておき、低圧ポートの配管温度が徐々に低下し、5~10℃程度になれば冷媒量はほぼ適量になっていると推測できます。
そして、車内側に周り、エアコンの吹き出し口から以前のように冷たい風(5~10℃程度)が出ていたら、冷媒の補充は完了です。
この冷媒充填の工程が一番の肝ですので、特に初めてガスを充填する場合は、この工程(ゆっくりとガスを補充とサイトグラスのチェックを何度も繰り返す)に20~30分程度費やすぐらいの気持ちで挑みましょう。
お疲れ様でした。
これでカーエアコンの冷媒ガス補充は完了です。
カーエアコンのガスチャージに関するQ&A
ここからは、カーエアコンのガスチャージに関してよくある質問Q&Aについてお話していきます。
Q;サイトグラスがない車(輸入車など)に冷媒を補充する場合はどうすればいいのか?
輸入車などの場合、カーエアコンにサイトグラスが付いていないことがあります。
実は輸入車の場合、冷媒を補充するということはせず、一旦すべての冷媒を回収(真空引き含む)して、予め決められている量の冷媒を充填するという方法を取ります。
カーショップなどの場合、下記のような専用の冷媒回収&充填機のようなものを使ってその作業を行います。
- 高い冷媒回収率
- 作業手順は自動、個別作業ステップの手動選択も可能
- 起動時に自己診断を行い、異常がある場合にはエラー表示を行ない、作業の中断を防止
- 高精度な冷媒充填管理が可能(±10g)
- 回収オイル量を自動で計量し、同量又は設定量を自動で充填を行なう事が可能
- UV蛍光剤を設定量自動で充填が可能
- 作業結果を印刷するサーマルプリンター搭載
- 必要なメンテナンス時期を通知(ドライヤーフィルター、真空ポンプオイル)
このような機械を使えば、冷媒回収から真空引き、冷媒やコンプレッサーオイルの充填(真空引きをする場合はオイルも補充する必要がある)まで効率良く行うことが出来ます。
ですが、地球温暖化を防ぐために冷媒は大気放出してはならないという決まがあり、ライセンスを持った人が専用の機械(冷媒回収機)などを使って冷媒を回収しなければならないというルールがあります。
(他人からお金を取って冷媒を正規のルートで有料処分せず、大気放出するような商売をしてはならないということ)
ただし、今回のようにカーエアコンから抜けてしまった分だけ冷媒を補充するだけで大気放出はしないのであれば、その作業は自分で行うことが出来るというわけですね。
結局のところ、サイトグラスが無い場合、高圧圧力と低圧圧力だけ冷媒量が不足しているかどうかを判断しなければならなくなりますので、冷媒充填に関して相当経験やノウハウのある人か、または同じ車種の車ばかり取り扱う人でなければ正確に冷媒を補充することは難しいと思います。
これらのことから、DIYが好きな人にとってはとても残念ではありますが、サイトグラスのない輸入車の場合はプロに頼んだ方がいいと思います。
Q;カーエアコンの修理はどこにお願いするのがいいのか?
カーエアコンが効かなくなってしまった理由が冷媒漏れではなく、それ以外のパーツの故障などである場合、業者に頼んで修理をしてもらう必要があります。
というのも、カーエアコンのパーツを交換しなければならない場合、専用の機械を使って①冷媒回収、②パーツ交換、③真空引き、④冷媒&コンプレッサーオイルの充填という流れで作業を進めていくことになるのですが、私達素人の場合、専用の道具がないため、例え故障の原因を特定してパーツ交換ができるとしても、①、③、④の工程を自分で行うことができません。
では具体的にどこに修理を依頼すればいいのかということについては、オートバックスやイエローハットのような車用品専門店、ガソリンスタンドなどでは修理を依頼しないほうがいいと思います。
それらのお店では、冷媒の回収&再充填は可能ですが、エアコンの修理まではできないことが普通です。
ディーラーの場合、細かな原因を探ることはあまりしないので、ほとんどのケースでエアコンをアセンブリ交換(エアコン一式交換)となります。
その場合、エアコン一式を交換するため部品代が高額(20~30万円)になりることもありますので、事前に修理の見積もりを取って検討することをおすすめします。
カーエアコンの修理で一番オススメなのが、車の電装屋さんです。
車の電装屋さんとは、自動車の電気系統に関わるパーツ(カーナビ、カーオーディオ、バッテリー、オルターネーター、エンジンコンピューターなど)の取り付けや修理を専門で行っているお店のことです。
このようなお店では、カーエアコンの事を熟知しているため、故障の原因を特定し、故障したパーツだけを交換していくというスタンスのお店が多く、交換部品が少なくなり、修理費用が大分安くなることが多々あります。
車の修理といえば、ディーラーや認定整備工場などが思い浮かぶと思いますが、一度車の電装屋さんも行ってみて、見積もりを比較してみるのがいいと思います。
最後に一言
今回は、【完全保存版】車のエアコンのガスを自分で補充する方法についてお話しました。
カーエアコンの冷媒ガスは、ちゃんと整備されていた車でも徐々に抜けていき、5~10年で補充する必要のある消耗品です。
ちょっとエアコンの効きが悪くなってきたなぁと感じたら補充してあげてくださいね。
ただし、この作業内容は圧力の高いガスを扱いますので、自分には無理だとか、ここがよく分からないんだけど・・・と感じたら決して無理はせず、必ずプロに相談するか、プロに任せるかするのがいいと思います。
是非参考にしてみてくださいね。
それでは!